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土地のDNAを、現代の建築へ。
仲本昌司が考える「沖縄建築」のこれから
「建築は、その場所に既にあるものを受け入れて、形にする行為そのものである」と仲本昌司氏は語 る。沖縄特有の気候 や風土を単なる設計条件として処理するのではなく、人々のDNAに刻まれた「見え ないものと共に生きる感覚」まで丁寧に読み取り、建築空間として定着させることを試みている。世界で 評価された『The three roof house』での伝統の再構築や、自邸『亜熱帯のいえ』で見せた合理的な混 構造は、土地のDNAを現代の技術で編み直した成果だ。緻密なディテールを追求する先に行き着い た、ありのままの日常に馴染む「ラフな美しさ」。伝統への敬意と自由な感性を併せ持つ仲本氏の視点 は、沖縄建築を地域固有の枠組みから解き放ち、沖縄建築の新たな普遍性を切り拓こうとしている。
――― 仲本さんにとって「沖縄建築」とは何でしょうか。
仲本昌司(以下仲本)沖縄で古来から日常的に行われてきた、自然との関わり方の「作法」だと考えて います。強い日差しや雨を遮りつつ、風を心地よく取り込むための大きな庇(ひさし)や、半屋外の空間 (雨端)は、先人たちが長い年月をかけて導き出した必然的な形態といえます。高度な技術が発達し、 人・もの・情報が活発に行き交う現代においても、その本質的な部分は変わらないと思います。海外や 本土の先進的な手法やデザインを積極的に吸収すること自体は奨励されてしかるべきですが、単なる 形態の模倣に終わるのではなく、いま目の前に既にあるものをどう受け入れて、形にするかという行為 そのものが、沖縄建築の本質ではないでしょうか。
――― 沖縄の厳しい気候は、設計にどのような影響を与えますか。
仲本 私たちは設計にシミュレーションも多用しますが、数値上の「快適さ」と沖縄での「実感」には大きな 乖離があります。例えば湿度が非常に高い数字であっても、風が通れば不快ではなく、サンダルで過ご すのが心地よい瞬間がある。自然を排除するのではなく、受け入れる「共生」の姿勢こそが重要です。 数値を超えた感性の部分をどう建築化していくかを常にテーマにしています。
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沖縄の伝統家屋を現代に。A' Design Award銀賞を受賞したThree roofs houseは、4mの柱のない軒下空間「雨端」が、直射日 光を遮り、風を取り込みながら、心地よい居場所をつくり出している
屋根を3分割し、北側から安定した光と風を取り込む。場所ごとに異なる天井高が生まれ、明るさと開放感のある空間をつくり出し ている
――― 大切にしている設計思想を教えてください。
仲本 徹底的に悩み抜き、研ぎ澄ませた先に行き着く「飾らない美しさ」を追求しています。かつては余 計な線を徹底的に消し去るモダニズムの美学に心酔し、格闘した時期もありました。しかし今は、設計 の過程や思考が透けて見えるような、ありのままの日常に馴染む「ラフさ」こそが豊かなのではないかと 考えています。
かつて画家のピカソは、顧客の目の前で即興的にスケッチした作品に「わずか10秒で描いたにしては 高額すぎる」と苦言を呈された際、「これは50年の経験と10秒の結果だ」と答えたという逸話がありま す。何十年も泥臭く考え抜き、技術を磨き続けてきたからこそ、ふっと力が抜けた瞬間に、純粋で迷いの ない一筆書きのような空間が生み出せる。そのような、作り手の作為を感じさせない、住み手が自然体 で楽になれるような、しなやかでタフな建築を目指しています
――― 未来へ残したい沖縄の建築文化は何ですか。
仲本 その土地と真摯に向き合ってつくられた、「対話の足跡」と呼べるような名建築が県内には幾つも あります。例えば名護市庁舎は、私も10代の頃から現在に至るまで何度も足を運んでいますが、その たびに受ける印象が変わり、設計者が沖縄というテーマとどう向き合ったかを深く 考えさせられます。た びたび議論の対象にも上りますが、こうした「向き合った建築」が残らなければ、沖縄の建築文化は途 絶え、またゼロから思考を積み上げ直すことになってしまいます。
私自身も生涯で納得のいく作品を10件は残したいという目標を掲げています。県外の人が見た時に「沖 縄の建築とは、なるほどこういうことか」と肌で感じてもらえるような、地域にフィットした作品を積み重ね ていくこと。その継承の積み重ねこそが、真の意味での沖縄建築文化を形作っていくのだと確信してい ます。


未来へ遺したい名護市庁舎。沖縄の風土と対話し、地域の建築文化を刻んだ名建築だと語る
亜熱帯の自然と共生する「亜熱帯のいえ」。RC造と木造を組み合わせ、沖縄の厳しい気候に応えながら、風や光を取り込む心地 よい住環境を実現した
――― 若い建築家へのメッセージをお願いします。
仲本 「沖縄だからこうあるべき」という固定観念や、閉じられた殻に閉じこもらないでほしい。アジアの中 の一つの拠点として沖縄を捉えるような自由な視点を持ちつつ、同時に、目の前にある「おじーやお ばーの家のフランクな雰囲気」のような、身近で豊かな日常にも目を向けてほしいですね。
まず、「沖縄の建築はこうあるべきだ」という固定観念や自らの殻に閉じこもらないでほしいと思います。 現代の沖縄は、アジアの一拠点として世界と地続きの場所にあります。広い視野を持ち、海外や本土 の優れたデザインを積極的に吸収することは素晴らしいことですが、それが単なるスタイルの模倣に終 わってはいけません。一方で、実は最も大切なヒントは、おじいやおばあの家にあるような、気取らない フランクな日常の豊かさの中に隠れていることもあります。
また、設計とは「関係性」をつくることだと自覚してほしいと思っています。白紙に木を一本描いただけで は風景にならないように、周辺環境や歴史、文化との繋がりを大切にした、地に足の着いた設計を心が けてもらいたいですね。建築は個人の資産であると同時に、その地域の原風景を形作る公共的な礎で もあります。単にかっこいいものを作るだけでなく、数十年後のメンテナンスや町の将来まで見据え、そ の土地と真摯に「対話」を続けることが肝要です。
<Perspective>
「建築家としてさまざまな経験を重ねるにつれ、最近は“共生”という概念を強く意識するようになった」と 話す仲本氏。過酷な自然を排除せず、湿気や風を日常の一部として受け入れるその設計作法は、緻密 な洗練の先にある、ありのままを肯定する「飾らない美しさ」へと結実する。土地のDNAを現代の技術で 編み直す彼の試みは、沖縄建築を地域様式の枠から世界に通じる普遍的な価値へと昇華させる強靭 な指針といえるだろう
仲本昌司 / MASASHI NAKAMOTO
株式会社ADeR(アデル)
代表取締役 一級建築士
1979年 沖縄生まれ
京都造形芸術大学卒業
(株)高崎正治都市建築設計事務所
(有)アトリエ門口を経て、2017年アデル一級建築士事務所設立
2018年株式会社ADeRとして法人化








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