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沖縄建築を「発明」する。
島田潤が見つめる、気候風土と100年先の住まい
「本土の常識は沖縄の非常識」という鮮烈な言葉を掲げ、長きにわたって沖縄建築のあり方を問い続けてきた島田潤氏。全国一律の基準や本土の既成概念や固定観念に捕らわれることなく、固有の気候風土や伝統文化、人々 の身体感覚などに根ざした「ヴァナキュラー(vernacular)な視点」を主眼に据え、過酷な亜熱帯気候に 真に寄り添う設計スタイルを貫いてきた。コンクリートの堅牢さと木造の可変性を融合させたハイブリッド 構造の住宅や、21世紀の建築資材として「緑」を捉える独自の視点は、100年先の社会を見据えた挑戦 ともいえる。AIが設計を代替する時代が来ても、「その土地の光や風を肌で感じ、構想する”人間の感 覚”こそが建築家の本質である」と説く氏の言葉から、沖縄建築の進むべき未来を紐解く。
――― 島田さんにとって「沖縄建築」とは何ですか。また設計において大切にしていることを教えてください。
島田潤(以下島田)私にとって「沖縄建築」とは、単に赤瓦を載せるといった表面的な操作ではなく、過酷な 亜熱帯気候の中でいかに快適に暮らすかを突き詰めた「先人の知恵の結晶であり、
合理的な発明」です。戦前の住まいがそうであったように、厳しい自然と共存するために考え抜かれた「バナキュラー(土着)で機能的な美」こそが、沖縄建築の本質だと考えています。
設計においては、建物が主役として主張するのではなく、「設計そのものが気候風土に寄り添うこと」を何よりも大切にしています。土地には一つひとつ異なる個性があり、方位や傾斜、風の流れも千差万別です。それらを素直に受け入れて、無理に地形を変えずにシンプルに組み立てることで、その場所でしか成立しないデザインが生まれます。
また、AIが効率的に設計を行う時代だからこそ、現場に立った時に感じる光の差し込み方や風の気配といった、数値化できないものを捉える感性こそが、建築家の生命線になっていくでしょう。
———— 沖縄の過酷な熱帯気候に対し、建築はどう向き合うべきだとお考えですか。
島田 沖縄では冬の寒さを防ぐ「断熱」よりも、強烈な太陽光を日傘のように遮る「遮熱」こそが重要です。戦後の沖縄で主流となったコンクリートは、一度温まると冷えにくい蓄熱性の高い素材です。これを理解せずに本土基準の設計を持ち込むだけでは、夏場は暑くて住めたものではありません。 伝統的な赤瓦の民家がそうであったように、大きな屋根で深い日影を創り、風を抜く工夫が必要です。私はこの知恵を現代に引用し、外部環境との緩衝帯となる「雨端(アマハジ)」をテラスとして設けることで、自然のうつろいを感じながら生活できる場を提案しています。


引き渡し時にクライアントへ贈る写真集を眺めながら、完成した建築に込めた思いを語る島田氏
「雨端」空間が室内・庭・海の眺望をつなぐ
――― コンクリート、金属、ガラス、木といった主要な素材がある中で、「緑」を「第5の建築資材」と位置づけ、設計において重視されているのはなぜでしょうか。
島田 私が「緑」を重視するのは、それが単なる装飾ではなく、沖縄の過酷な環境において非常に優れた機能を持つ「生きた建築材料」だからです。人工の素材は太陽光によって年々劣化していきますが、植物は光を浴びてすくすくと育ち、時間の経過とともに価値を増していきます。
具体的には、植物はその大部分が水分で あるため、蒸散作用によって周囲の温度を下げる天然の冷却装置となります。壁面や屋上を緑化することは、コンクリートの蓄熱を抑える最も効果的な遮熱対策の一つなのです。
また、私の理想は、どこからが建築でどこからがランドスケープ(景観)なのか分からないほど、両者が融合した姿です。緑で建物を覆い、立面(外見の壁)を消し去ることで、建築が過度に主張するのを抑えたい。戦前の沖縄が緑豊かな美しい景観を持っていたように、現代の技術でメンテナンス性を高めた緑化システムを「発明」し、住む人が五感で自然を楽しみ、もっと自然を好きになれるような場を創りたいと考えています。



建築士協会の会報表紙に寄稿した、赤瓦住宅を描いた作品
思いを形にする。島田氏が手掛けた建
築模型の数々
――― 若い建築家や、世界の人へメッセージをお願いします。
島田 若い建築家には、東京ばかりを見ずに世界地図を俯瞰して、沖縄という場所の立ち位置を再確認してほしい。沖縄は決して東京の流行を追う末端の場所ではありません。同じ亜熱帯気候に属する東南アジアと地続きの文化圏であり、本来なら沖縄の建築士がアジアへ進出し、その土地にふさわしい住まいを提案できるはずです。しかし現状は、
気候風土の異なった地域の建築スタイルやインスタ映えする意匠、あるいはクーラーに頼り切った「本土の常識」に縛られ、沖縄独自の可能性を自ら狭めてしまっています。
かつて先人が、限られた材料の中から赤瓦の家という「合理的な発明」を成し遂げたように、私たちも現代の技術や知見を駆使して、この気候に真に応える新しい建築を「発明」しなければなりません。既成概念を打破し、トライ・アンド・エラーを恐れずに挑戦し続けること。そして世界に向けては、この「バナキュラー(土着)で機能的な美」こそが沖縄の誇りであると伝えたい。どこにでもあるコンクリートの箱を作るのではなく、自然を遮断せずにむしろ自然をより好きになれるような空間。そんな沖縄の知恵が詰まった建築文化を発信していくことで、地球環境の未来にとってもきっと大いに貢献できると思っています。
<Perspective>
島田氏の語る「沖縄建築」は、単に伝統の形式をなぞるのではなく、その背景 にある合理的な知恵を現代に転生させる試みである。100年単位の持続可能性を見据えたハイブリッド構造や、「緑」を機能的な資材として再定義する視点は、個別の作品を超えた、沖縄における建築の普遍的な「解」を提示している。土地の呼吸を読み解く氏の姿勢は、テクノロジー全盛の時代において、建築家という存在の意義を改めて問い直すものである。
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