OAJ Tour 沖縄美ら海水族館
海を「展示する」のではない。海のスケールを建築化する
沖縄北部・本部半島。エ メラルドブルーの海を見下ろす丘陵地に、沖縄建築を語るうえで欠かせない建築があります。沖縄美ら海水族館です。
多くの人はジンベエザメやマンタを目当てに訪れます。しかし建築という視点で見れば、この場所は「水族館」という施設以上の存在です。沖縄の風景、光、海、そして地形を一つの建築へと昇華した、沖縄モダニズム建築を代表する作品の一つともいえる作品なのです。
設計は、沖縄を代表する設計事務所・株式会社国建。設計を統括したのは、"光と風の建築
"を追求した建築家・國場幸房※。2002年の開館以来、世界中から多くの来館者を迎えながら、その建築的価値も高く評価されています。
※國場幸房(こくば・ゆきふさ/1939–2016)1939年沖縄県那覇市生まれ。 1963年早稲田大学第一理工学部建築学科卒。 1963年大高建築事務所入社。 1967年株式会社国建入社。ムーンビーチホテル(75年)、那覇市民体育館(86年)、パレットくもじ(91年)、県公文書館(95年)、宮古空港新ターミナル(97年)、海洋博記念公園沖縄美ら海水族館(2002年)、那覇市役所新庁舎(12年)などの設計を手掛けた。
建築が風景の主役にならない理由
美ら海水族館に近づいて最初に感じるのは、「建物が目立たない」ことです。
巨大施設でありながら、建物は海洋博公園の起伏に寄り添うように低く構えています。屋根は細 かく分節され、空から見るとマンタの群れが海を泳ぐようなシルエットを描きます。
これは単なる造形ではありません。
建築が自然を支配するのではなく、沖縄のランドスケープの一部になること。その思想が、この控 えめなボリュームに表れています。
「黒潮の海」へ向かう建築のストーリー
館内は、単に展示室を巡る構成ではありません。
サンゴ礁の浅瀬から始まり、外洋、黒潮、そして深海へ。
来館者は歩きながら、水平方向だけでなく、海の"深さ"まで旅するように設計されています。
そしてその物語の頂点に現 れるのが、「黒潮の海」。
高さ8.2m、幅22.5mの巨大なアクリルパネル越しに広がる水景は、建築がフレームとなり、海そ のものを一枚の風景画へと変えています。巨大水槽の存在感だけでなく、それを際立たせる空間 の抑制が、この建築最大の魅力です。
沖縄の光を取り込む建築
沖縄の太陽は、本州とは質が違います。
國場幸房は、その強い自然光を遮るのではなく、トップライトや半屋外空間を通して自然光を巧み に取り込み、館内全体に沖縄らしい明るさと開放感をもたらしています。
エントランスの大きなパーゴラは、日差しを和らげるだけでなく、海風を受け止め、人が自然に集う 「半屋外の滞留空間」として機能します。
沖縄建築に欠かせない
深い庇
半屋外空間
風の抜け
光のコントロール
そのすべてが、現代建築として洗練された形で再解釈されています。
OAJ Architect's View
美ら海水族館は、「世界最大級の水槽」が主役ではありません。
本当に印象に残るのは、建築が最後まで主役になろうとしないことです。
海を見せるために建築が引き、自 然を感じるために空間が静かに支える。その控えめな設
計思想 こそ、沖縄建築が長年育んできた風土への敬意を象徴しています。
世界的な観光施設でありながら、そこには地域の気候と風景に根ざした建築文化が息づいていま す。
だからこそ、美ら海水族館は「見る建築」ではなく、「体験する建築」として、今も多くの建築家やデ ザイナーを惹きつけ続けているのです。
[ DATA]
名称 沖縄美ら海水族館
建築主 沖縄国営記念公園
所在地 沖縄県国頭郡本部町字石川424番地 MAPでみる
竣工年 2002年10月
敷地面積 770,000.00㎡
延べ面積 19,199.00㎡
最高高さ 18.1m
【受賞歴】
日事連建築賞:優秀賞(2004)
公共建築賞:特別賞(2006)









